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「パワーグリップ7本組」セット。+α=?とは・・・?

 スタートで迷うのが彫刻刀の手に入れ方

Q. どんな彫刻刀を揃えればいいんですか? どこで買えますか?

木版画教室にて、初めての彫刻刀はどれを選べばいいのか?

こんにちは、萬里(まさと)です。
【木版画教室 ゆう】で初心者・中級者をメインに、木版画を教えています。

教室の新サイト開設に伴い、新しくブログを立ち上げました。
「木版画」とくれば、合いの手は「彫刻刀」ですよね。

はじめて木版画を始めようと思った時に、何よりも最初に必要になるのが、
この「彫刻刀」です。

よし、早速買ってこようと街へ探しに出かけると、
たいていは5本や7本入りの箱入りセットが売ってあります。
近在のスーパーや文房具屋さんで手に入るのは、ほとんどこうした学童用のセットです。

木版画を始めるのに、セットの彫刻刀ではまずい、なんてことはもちろんありません。

でも、考えてみてください。
学生時代に、365日彫刻刀で版木を彫っていたなんて人はまずいないでしょう。

学童の木版画制作は、基本的に木版画を作るというひとつの単元が終わるまでのことです。
たまに木彫の授業でも使ったよ、という程度の頻度です。

頻度は少ないことはわかっているし、高額な費用はかけられない。
したがって学童用の彫刻刀は、一番肝心な刀の部分の鋼(はがね)の質がよくありません。
ちょっと使ったら、いわゆる「なまくら刀」になってきれいに彫れなくなってきます。


彫刻刀の刃は鋼(はがね)の質が「命」

セット彫刻刀各種の図
だから、大人になって木版画にチャレンジしたいという人には、
やはり、専門家用のしっかりした鋼(はがね)の彫刻刀を使ってもらいたい。

と、いちおうはそのように考えるわけですが、
最近はこうした用具用材の高騰が激しく、彫刻刀も1本3,000円以上します。
それを7本買うと、3,000円✖️7本=21,000円(税なし)となってしまいます。

最初に用意するのは彫刻刀だけではないとすると、さすがに・・・、
「専門家用を買ってくださいね」とは言いにくいのです。


でも、初めて参加した生徒さんのほとんどが、やはり
「先生、彫刻刀やほかの用具はどこで買えばいいのですか?
 どんなものを揃えればいいのですか?」
と質問してきます。

結局、木版画の用具を揃えるとなると近所のお店では埒が開かないのです。
しっかりした画材屋さんでないと、なかなか専門の用具は販売していません。


長年、私も何と答えてあげたらいいかと考えあぐねてきたのですが、
最近、彫刻刀とバレンに対しては回答がでました。

木版画の専門家用の用具が高価だと言ったところで、
ゴルフ・バッグのセットや茶道具なんかに比べると比較になりません。
ただ、だからといって用具に無神経にお金を使っていいものでもないでしょう。

結果として、私はこの記事タイトル下に表示した写真の彫刻刀をすすめています。
もちろん、専門家用が用意できる方には、最初からそうするようにと伝えます。


廉価な彫刻刀で、まず彫る体感を身につける

パワーグリップ彫刻刀で彫っているところ
ページトップのアイキャッチ画像の彫刻刀は「パワーグリップ7本組セット」といいます。
ほかのものと同じく、学童用のセットではあるのですが、
高学年(高校生)用に作ったと聞いたことがあります。

まったく初心で木版画を始める人には、
私はこの彫刻刀が向いているのではないかと考えています。
しっかり、その理由もあるのです。

パワーグリップは、その名の通りグリップ部分に特徴があります。
彫刻刀といえば、だれもが思い浮かべるのは、
まっすぐな柄の先に、鋼(はがね)の刃がついた形でしょう。

パワーグリップは、握り、つまりグリップ部分をあえて凹部に削ってあります。
この凹み部分に、親指と人差し指の又が引っ掛かることで
手の滑りが止まり、指の握りが安定します。


版木を彫るというのは、基本的には木を切り裂くということですね。
刀を押して木を切り裂くのが彫りという仕事です。

これを木の立場で見ると、うかうか切り裂かれてたまるか、と反発します。
その反発が押しに対する「反作用」として返ってくるのです。

グリップ部にハマった指の又は、いやでもこの反作用を
「力」として受け止めざるを得ません。

指が滑って反作用の力が抜けてしまう、ということがないから、
彫っている人はグリップの反作用を必ず体で感じます。
必然的に体感し、反作用に負けない「押し」の圧を高めようと
反応・対応できるわけです。

パワーグリップ7本セットが、3,500円前後。
専門家用彫刻刀の1本の値段程度です。

廉価な彫刻刀で、刀を押す加減を覚えたり。
刀の握り加減を覚えたり。なにより、
「押す」ことには「反作用」に勝る圧が必要であること。

これらを自然に体感しながら身につけられるのです。


さらによく観察すると、ほかの刀にないもうひとつの特徴があります。
この彫刻刀は刃先に向かって柄がいくらか細くなっているのです。
これも製作者の製作上の試行錯誤の結果だと思われます。

押す圧力が分散せず、刃先に集中していくようにした工夫だと思われます。

こうした点から見て、パワーグリップは初心者向きの彫刻刀だと感じます。
これを使っている生徒さんがお気に入りな理由も、よく理解できます。



彫刻刀セット+α=?の意味は

初めて持つ彫刻刀7本組セットと浅丸刀
木版画の彫り方には、まったく違った2種類の彫り方があります。
1、「彫り残し」
2、「浚い(さらい)」

「彫り残し」の彫りとは、図柄の不要部分を彫るときに、
意図的に彫り残し部分を残しながら彫る彫り方です。
所々に残る彫り跡が、図柄に味わい深い表現をプラスしていきます。

他方、「浚い(さらい)」という彫り方は、溝を浚う様に凹凸なく
滑らかに彫り上げて、一点の汚れも出さないための彫り方です。
浚いは、お皿状に深めに彫ることが大事になります。


7本セットの彫刻刀は、刃の幅があまり広くないものでセットされています。
だけど彫りの中には、「浚い(さらい)」のように、面積の広い部分を
汚れが出ないように彫らなくてはならない部分が必ずあるのです。

そういう部分を幅の狭いセットの彫刻刀で彫っても、凹凸が激しくなるだけで、
逆に汚れの出やすい彫り方になってしまうことがほとんどなのです。

だから、最初からそういう「彫り残し彫り」「浚い彫り」の彫り分けにも
慣れてもらうために、7本セットに「+α」を加えます。

αは、女性なら12ミリ幅の浅丸刀。
男性なら、15ミリ幅の浅丸刀です。

彫刻刀の幅が広くなると、それに合わせて「柄」の太さが太くなります。
15ミリになると、女性の細い小さい指には持ちにくい太さになります。
彫っている生徒さんの様子から、女性は基本12ミリまでと決めています。

浅丸刀は、普通の丸刀よりUのカーブが緩い、平べったい感じの丸刀です。
この刀で、ザクザクと深めの浚いを彫る感覚を早くに身につけて欲しいのです。

この浅丸刀は深彫りで使用することも多いので、専門家用のしっかりした刀を
初めから用意します。
1本数千円します。

というわけで、?は、セット+α=およそ10,000円前後(含む税+送料)。
これが正解です。



木版画の用具・用材を揃えるための場所を知る

明治からの老舗画材店「文房堂」
 (写真参照元:https://egasuki.com/2020/01/06/copperplateengraving14/)

なるほど、と納得してもらえたでしょうか?
ご意見があったらコメントくださいね。

ところで、木版画を続けるには各種の用具・用材が必要になります。
先に述べた様に基本的には画材屋さんが扱っています。

しかし、都会ならいざ知らず、地方では画材屋を探すのも一苦労です。
何とか店があっても、欲しいものの在庫がないということがほとんどです。
今の世の中ですから、ネットで買えるお店を紹介しておきます。

用具・用材の購入店は、今後も都度紹介します。
スピーディーに用具が揃わないとやる気もなくなりますからね。


今回のパワーグリップや浅丸刀は、次のサイトを調べてください。
「ウッドライク・マツムラ」

ここは今や版画専門の各種代理店で、木版画に関係する用具・用材なら、
たいていのものは揃うはずです。

お店の方も、木版画をやる人のためにという想いで商品を揃えてくれています。
まずひと通り覗いてみましょう。

名前から想像がつく様に、もともとは材木商。

現在の社長さんが木版画の勉強をしていた関係から、版画専用のベニヤ板を製作。
現在木版画専用のベニヤ板となると、一時はここに頼るしかなかったのです。
ま、最近はほかでも木版画専用版木を販売するところがでてきています。


今回紹介したパワーグリップの製造元は
 三木章刃物本舗 https://mikisyo.com/

浅丸刀12ミリ・15ミリの製造元は
 道刃物工業(株)  https://www.michihamono.co.jp/
なぜここの浅丸を選んだかというと、鋼(はがね)がハイス鋼という
硬い切れ味の良い鋼を使っているからです。

両製品ともウッドライク・マツムラでも取り扱っています。
以下のリンクを開いて、材料・用具などの販売店の知識も増やしていきましょう。


外部リンク

ウッドライク・マツムラ
三木章刃物本舗
道刃物工業(株)