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彫刻刀の使い方の基本を身につけると、彫るイメージを沸かせながら作業ができる

彫刻刀の使い方で最優先すべきなのは「怪我するな!」

彫刻刀の刃先に押さえの手がある場合の写真例
こんにちは、萬里(まさと)です。

木版画制作の必需品、彫刻刀。
誰だって、スイスイと巧みに彫っていけるようになりたいですよね。
そのために、彫刻刀の使い方を勉強します。

ネット上には、彫刻刀の使い方をPRするものはたくさんあります。
「彫刻刀の彫り方」とか「彫刻の使い方」などのキーワードで検索してみると、
たくさんのサイトが、ヒットしてくると思います。

必ずしも、みんなが同じことを解説しているとは限りません。
中には、互いに真反対のことが書かれているかもしれません。


それ、どちらがいいとか悪いとかは決められません。

解説する人の使い方や考え方によって、正しさも変化します。
だから、やり方だけを鵜呑みに覚えようとするのではなく、
なぜ、どうしてそんなやり方になるんだろう? と、
自分なりの解答を出しながら見ていって下さい。

サイトを見るのは、具体的なやり方は勿論なのですが、
考え方や理由、そして具体的なイメージををインプットしていく。
そんな風に考えて見ていってほしいですね。

ぜひ、いろいろな勉強をして上達してください。


だけど、使い方の上達の前に絶対に守らなければならない約束事が、
彫刻刀にはあります。

そのことを強調したサイトというのはあまり見かけません。
大抵のサイトは、サラッと流し書きのように注意してあります。
でも、彫刻刀の使い方では、これが最初の一番重要事項なのだと考えます。

その最重要事項とは、

「怪我するな!」

という天の声を守ることです。


片手彫りをするときが、特に要注意です。
版木が滑らないように、彫り進む方向の真向かいで左手で版木を押さえ込みます。
このとき、もし右手の彫刻刀が滑ったら……!

彫刻刀は、まっすぐに押さえの左手に突っ込んでいきます。
ダイレクトに突き刺す形になりますから、傷は深く、ときに骨にまで達します。

刀の刃の前方に、自分及び他人の体が無いこと。
これが、彫刻刀に限らず刃物全般に通じる一番最初の注意事項です。


「怪我するな!」は徹底すべき最初の約束、

彫刻刀を相手に渡すときの悪い例
彫刻刀は、刃物です。
包丁やナイフやノコなどと同じ、日常使いの刃物です。

昔から、「刃物の取り扱いのポイント」は決まっています。
その第一番が、

「刃の先に、自分の体や他人の体をもってこないこと」

だから日本では、道具扱いの作法として、
「刃先を他人に向けるな」
「刃の向かう方向に手を置いたり、他人の体があってはならない」
といったことを口うるさく言ってきたのです。

包丁などの刃物を他人に渡すとき、
刃先を自分に、包丁の柄を相手に向けて渡す。
これが日本の刃物のマナーです。彫刻刀の場合もまったく同じです。

刃物扱いのコントロールが乱れると、思わず手元が滑ります。
その先に人間の体があると、当たり前に怪我をしていまいます。

それを予防するために、刃物扱いの第一章は
刃先に自他の体がないことを徹底するのです。

上手になることより、
「怪我をしない・させないこと」
をまずしっかり理解してください。



版木を押さえる位置は刃の脇か刃より手前の位置

木版画の彫りの作業のとき、彫刻刀は自分の「へそ」の位置から真正面方向に動かす、
それが「押し」の力の効率が一番良い彫り方です。

生徒さんの彫り姿を観察していると、体を捻って横方向に彫ったり、
無理な姿勢で斜め方向に彫ったりしている人が大変多いです。

彫っていると版木が動くので、左手で版木の縁を押さえたりしています。
このとき、自分でもよく観察してくださいね、押さえている手と彫刻刀の関係を。

ほとんどの人が、彫刻刀の刃向かう方向の真向かいの位置を押さえているはずです。

これは危険!

癖のある板木などで無理やり彫ろうとしたとき、「スーッと」彫刻刀が滑ってしまう。
そのとき、彫刻刀の刃の先に何がありますか?
そうです。版木を必死に押さえ込んだあなたの左手。

大変!!!!!
あなたは怪我しました。

彫刻刀はグサリとあなたの左手に飛び込み、ひどいときには骨にまで達します。
すぐに血が溢れ出し、ティッシュで押さえたくらいでは止まるものではありません。
傷口に近い血管を根本で押さえ込んで、止血してから手当てです。

こういうひどいことにならないよう、版木の押さえ位置は刀のサイドか手前にします。
そうでなければ、版画作業版を使って板木の動きをストップさせながら彫りましょう。



「乱れそめにし われならなくに」ってもしかして木版画の作法のことだったの?

乱雑な作業机
百人一首に河原左大臣(かわらのさだいじん)という人が作った
   ”陸奥(みちのく)の しのぶもぢずり 誰(たれ)ゆゑに
    乱れそめにし われならなくに”
という有名な和歌があります。

陸奥で織られている「しのぶもじずり」という摺り衣の模様のように、まるで乱れてしまっている私の心。
これはいったい誰のせいなのでしょうか。私のせいではないのですが(あなたのせいなのです)。

私は、生徒さんの彫り姿を眺めながら、ときどき頭の中でこの歌を反芻します。
歌に関心があるわけではないのですが、語呂として頭の中に浮かんできてしまうのです。


写真を見てください。
彫り作業では、彫刻刀を取っ替え引っ替えするので、きちんと整頓させておくのは大変な技。
しかし、それでも程度ってものがあるでしょう、と泣きたくなる思いになるときがあるのです。

そんなとき、自分の慰めにこの歌を頭の中で歌うのです。


こういう乱雑な作業風景は、危険です。
彫ることに夢中になっている(そのこと自体はいいことなんですが)と、
無意識に刀を交換しようとして、手だけ伸ばします。

別の刀を取ろうとしたそのとき、うっかり刃先を掴んでしまい、
怪我をします。よく切れる刀ほど、あっという間に傷になります。

なんでこんなことで怪我するんだろう? 
と思うようなことで、思いがけない怪我をするものなのです。
だから、予防策としてできるだけ整頓しながら作業をするという習慣も身につけておくべきなのです。


外部リンク

日本に限らないのでしょうが、職人さんの仕事は思った以上に整理整頓されているものです。
教室に通っている人は、別に職人技を習得したいわけではないのですが、作業をする視点で考えると、
職人仕事には見習うべきことが多々あります。

おそらく、その一番に上げられるのが「整理整頓」なんじゃないかと思われます。
職人さん仕事が、企業の関心になっていることにも改めて感心。

ネットサーフィンしながら、こんな記事を見つけました。
「桐の蔵」さん、「シー・ティ・マシン株式会社」さん、ありがとうございました。

桐の蔵
シー・ティ・マシン株式会社