LOADING

コンテンツ CONTENTS

版木表面と彫刻刀の刃先の関係を「彫る前」に理解しておこう

彫刻刀の刃先の研ぎ角度を意識すると、彫りは楽になる
今回は、版木を彫る場合の基本についてお話します。
初心者は彫刻刀の使い方に悩みますが、「研ぎの角度のイメージ」を持っていれば、
使い方はうんと楽になるはずです。

アイキャッチの画像を見ればわかるように、
彫刻刀の刃先は、一部分だけがピカピカと輝いています。
この部分も、柄に近い部分と同様に、もともとは厚みのある鋼の板だったのです。

この板鋼の先の方を角度をつけて斜めに研ぎ出し、
ピカピカに磨き上げたのがキラキラ光る部分です。
「研ぎ出し」のお陰で、厚みのあった先端は薄く鋭く尖り、
軽い圧でもサクサクと気持ちよく版木が彫れるようになるのです。

この斜めに刃を研ぎ出して角度のついた方を、「刃表(はおもて)」と呼びます。
反対側の平らな方を「刃裏(はうら)」と呼びます。
(丸刀の場合は、全体を丸くカーブした状態に打ち出してから研いであります)

彫刻刀は角度のついた刃表の方を版木の表面に当てて彫ります。
意図的に「切り出し」の刃裏を使うことはあっても、基本それは例外です。


上の図を見てください。
「ポイントA」の刃の先端から、研ぎ出しの斜め部分をピッタリ版木につけてあります。
この状態で彫刻刀を前に押し出して、果たして版木は彫れるでしょうか?

そうです。
表面を滑るだけで、これではちっとも版木は彫れないのです。
でも笑い話ではありません。まったくの初心者が「彫れない、彫れない」と悩む中の
何十%かはこのパターンなのです。


版木表面に当てる彫刻刀の刃先の角度が「彫り」をコントロールする

彫刻刀での短い堀跡
彫刻刀の刃先を「ポイントA」に固定し、柄のお尻をを少しだけ上に上げてみると、
刃先の角度が版面に対して少し大きくなり、研ぎ出し角度との間に隙間ができます。

この角度の状態で少し刀を前進させると、刃先は版木に食い込んでいきます。

刃先がちょっとだけ食い込んだら、すぐに「しゃくりあげる」。
そうすると刃先は版木表面より上を向いてしまうので、すぐにスポッと抜けてしまいます。
つまり、浅くて小さな彫り跡(「タッチ」)がひとつできるわけです。

「しゃくりあげる」とは、刃先の「スイング」とイメージすると滑らかな作業になるでしょう。

1回で彫った彫り跡を「タッチ」と呼びましょう。
彫刻刀の刃先を、浅い角度で版木に食い込ませたら、すぐに「しゃくりあげる」。
これを連続的に繰り返すと、1センチに満たない小さな点々のような彫り跡がたくさんできます。

これが刃先のコントロールの第一歩。
点々彫りをたくさん彫って、「しゃくりあげる感覚」をしっかり身につけましょう。


2〜3センチの長さの「タッチ」を彫るコツは?

彫刻刀の角度と彫り
版木の彫りで一番使うのが、彫り跡「2〜3センチの長さのタッチ」です。

彫刻刀の刃先が版木に食い込んだらすぐに「しゃくる」のが、点々のような彫り跡の彫り方でした。
このときの彫っている指はほとんど伸びていません。
ちょんちょんと版面をスイングしながら、飛び跳ねているような動きです。

では、「2〜3センチの長さのタッチ」を彫るにはどうしたらいいのでしょうか?

「タッチ」の長さが伸びるには、彫刻刀の刃先が「版木の中で水平な状態で」
2〜3センチ移動する必要があります(上の図)。
その後しゃくって版の外に抜けるのです。
そのためには? 答えは、「指の関節を伸ばす」です。

刃先が版木に食い込んだら、版木の中で刃先を少ししゃくります。
そして、「刃の研ぎ角度」が版木の中で水平になったとき、
指の関節を伸ばしてぐっと押す。これで数センチ刃先が水平に移動します。
ある程度距離がでたところで、途中だった「後半のしゃくり」に移ると刃先が抜けます。

1センチの彫り跡なのか、2センチなのか・・・、
後半のしゃくり終わるタイミングで長さが決まります。
短い彫りを、自分の思う長さで自由自在に彫れるよう、何回も練習彫りします。

指先が跳ねるような、小さなタッチの点々彫り。
しゃくり加減を読みながら指の関節を伸ばして彫る、短いタッチのセンチ彫り。

ではもっと長い、版木の端から端まで一刀で彫るような「長い彫り」は、
どうやって彫りますか?


研ぎ角度の水平を維持して、版木と彫刻刀の角度を維持する

体の重心を前に落とすよう心がける
版木の端から端までに渡るような「長〜い彫り」は、手首から先だけの運動では彫れません。

では、腕も伸ばしていきましょう、という提案なのでしょうか?
それは名案のようですが、腕を伸ばしていくと困った現象が起こります。
指が遠くなっていくにつれ、版木に食い込んでいる彫刻刀の「柄の部分」が、次第に下がってきます。
そうすると、逆に刃先は次第に天を向く。つまりしゃくりあげる感じになって抜けてしまいます。

これでは長い距離は彫れません。自然に途中で抜けてしまうばかりです。

長い距離を一刀で彫り進めるには、版木に食い込んだ彫刻刀と版面の角度を一定に保つこと。
そのためには体全体の移動で刀を移動させること、が必要です。


彫刻刀の「彫り」とは、実は「全身を使う作業」です

長短の彫り跡
残念ながら、版木の中に食い込んでいる「刃先」の様子を目で確認することはできません。
ただ、彫る人にはその「断面図」を想像することはできます。
その「想像図」をちょっとだけ意識に持とうとするだけで、彫りの腕は変わるでしょう。

最初の食い込みから少しだけ「しゃくり」=第一段階、
刃の研ぎ角度が版木の中で水平になった時点が「彫りの深さ」になります=第二段階。
刃先が食い込んで、研ぎ出し角度が水平になったら、その彫刻刀の角度を維持したまま、
上半身全体を押し出すようにして刀を前進させていきます。

角度を維持しつつ体で押して前進すれば、
終わりのしゃくりあげ(=第三段階)が来るまで、長〜い彫りは続けられます。
場合によっては腰を浮かしたり、立ち上がっても構いません。

とにかく大事なのは、最後のしゃくり上げまで「彫刻刀の角度を維持すること」。

これが彫刻刀の「彫り」のコツです。
手先、腕先の作業にならないよう、全身の重心コントロールを意識し、
彫刻刀と版木表面の角度を維持することを常にイメージしながら作業すること。
コツとは、それにつきます。

大きな版木の場合など、たまには立ち上がって、
脚を踏ん張って作業することも必要になります。
ゆめゆめ指先だけの作業と考えないようにしましょう。


外部リンク

木版画は、小学校4年生の教材として初登場します。
危険な「刃物」なので、一定の発達段階に来るまでは紙版画などを学びます。

そんな事もあって、教材用の版画の技法を示したサイトも数多く存在します。

彫刻刀の使い方・彫り方なども、小学生に向けて、
あるいは指導者用に向けてとたくさん存在しています。

結構ていねいなサイトが多いなあと感じました。
子どものためであっても、もちろんおとなの初心者にも役に立ちます。
こうしたサイトを探して、大いに参考にしながら学びを進めましょう。


義春刃物株式会社【小学生向け】彫刻刀の使い方 完全ガイド

彫刻刀の種類と使い方(版画の基本)