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木版画は日本人にとって文化的アイデンティティを提供する

葛飾北斎 神奈川沖浪裏
上図の富士の作品、
作者は誰だかわかりますか?

バカにするなと怒られそうですね。あまりにも有名すぎますから・・・。
もちろん、「葛飾北斎」です。世界中で、いまやさらに人気が沸騰しています。

「北斎」の名前は、ずいぶん以前から世界中の多くの人々に知られています。
その認知度は、日本の総理大臣の名前なんか問題にならないくらいです。

それに付随して、世界的に浮世絵木版画の認知・人気がさらに拡大しているのです。
日本でもそういった傾向が、最近顕著になってきていますね。
若い人々の「浮世絵再発見」的傾向は、年々高まってきているようですから。


さて、日本を出て海外で暮らしている日本人は、思いがけなくたくさんいます。
不思議なことに、最近、木版画体験教室に参加する人の中に、
日本に里帰り中の受講者が急に増えてきました。

彼らの受講理由には、実は深いわけがあったのです。

「なぜ木版画を・・・?」という問いを、あるとき無遠慮に発してみたのです。

ほとんどの人は、外国に住むことに最初のうちは特に問題は感じなかったらしい。
しかし、海外での生活が長くなり、暮らしが定着してくるにつれて、
必然的に自分の出自である『日本人のアイデンティティってなんだろう?』
と考えざるを得なくなってきたのだそうです。


そのときになって、自らの出自のことを考えてみれば、実はほとんど知らない。
その気付きから、日本の文化を自分との関わりにおいて、
もっと深く知りたいと感じるようになってくるのだそうです。

日本の文化も色々あるが、世界的に認知度の高い日本の木版画は、
海外の人々の高いアイデンティティ意識と拮抗しうる良い話題になる。
そんなわけで、一時帰国中の間に、木版画の手ほどきを受けてみたいと思うらしい。

一日の体験でアイデンティティが確立されるわけはないのだけれども、
この教室では、「制作の全体」の流れを体験していくことに加えて、
浮世絵木版画以前から現代木版画までの流れについても触れていくので、
短時間でも参加者の要望には応えられると自負しています。


すでに米国人と自分は思っていても、アジア系の外見は変わらない

泳ぐ少女木版画
今回の記事に使用している画像は、
『浪裏の富士』以外は、アメリカで暮らしているオンライン生徒さん(女性m/gさん)の作品です。

アメリカで家庭を持ち、四半世紀ぶりに帰国した機会に受講され、
上記のような、精神的に募ってくる文化意識について語ってくれました。

一時的に海外暮らしをしていた人々から、同様の感想を伺ったことはありましたが、
長く暮らし続けねばならない方にとっては、深い問題なんだろうなと思われます。

帰国中に3度受講され、アメリカに戻ってからはオンライン受講に切り替え、
もう2年ほど制作を継続されています。

外国暮らしが身につくほどに、自ら米国人と認識しているにもかかわらず、
外見的にアジア系であることまではいつまでたっても変えられない。

それゆえに、出自の国について何かと問われることが多くなってくる。
そんな対話経験を重ねるたびに、いかに自分が「日本」という国のことを知らないか、
ということを嫌でも突きつけられるようになって、意識的に再学習したくなってくるのだという。

m/gさんは女性なので、育った日本の女性意識と暮らす米国の女性意識の差にも
いろいろ考えさせられてしまうということだった。

そういうことへの思いが、この方の作品にはあきらかに漲っている。


日本人の感性の一部を作り上げている水性木版画の色感

巨大な里芋畑の一本道をゆくベビーカーを押す女性
「文化的アイデンティティ」という意味では、水性木版画の「色感」が大きいと思う。
木版画自体は世界中に存在している。だから、それだけでは「日本の・・・」とはならないと思う。

基本的には同じ技法でありながら、西洋の木版画と日本の伝統木版画はまるで違う。
その違いの大本は、「水性絵の具」と「和紙」の影響が一番ありそうだと思う。

浮世絵の平滑な色面の色彩にのめり込んだ、と言われているゴーギャン。
同様に、その色面の輝きと画面構成の大胆さを驚嘆したゴッホ。
彼らも、油性インキの色面では出てこない「水性絵の具」+「和紙」の発色に魅了されたのでは?

そのように考えると、日本方式の木版画が持つ文化的アイデンティティの根本は、
その「発色」にあると考えてもいいように思う。水と紙が協調して作り出す。独特の発色。

そして、色面の組み合わせしかないからこそ一層効果を発揮する「ぼかしの技法」。
染物や織物に加え木版画の「水性絵の具」+「和紙」の特徴的な色彩の世界も、
日本人のアイデンティティに深い影響を与えているのではないでしょうか。



食物と同じように、「色感」にも出てくる日本人のアイデンティティ

鞘付きそらまめの構成
m/gさんが最初に受講した日。
講座が始まったとたんにドアフォンが鳴り、宅配便が届きました。

デザインは何にしますか? とちょうど頭を捻りかけたタイミングでした。
田舎に戻ったかつての生徒さんから、大きなダンボール箱いっぱいの「鞘付きそら豆」が届いたのです。
これはもう、一刻も早く茹であげなければならない。

四半世紀ぶりに帰国中の人も、鞘付きのそら豆はあまり見たこともないだろう。
というので、デザインはそっちのけにして、とにかく早く皮を剝いてくださいと共同作業。
で、すぐに茹であげて「美味しいですねえ」とほくそ笑んでいるときに、
「先生、わたしこれをデザインします」。

こうして、出来上がったのが上の図の作品でした。
簡単な陰刻か陽刻の小さな作品を予定していたのですが、
版木いっぱいの「陽刻」作品ができあがりました。

そら豆を食べることは、m/gさんの記憶の中のアイデンティティを刺激したと思います。
食べ物から手が離れたら、一気呵成にデザインが決まりました。

食物と同じように、色も五感に強く作用します。
自分の中で展開する色彩の世界も、自らの育ちの中で巡り合った色の印象の中で育まれます。
木版画を学ぶことで、自分のアイデンティティと出会うことは当然ですね。



木版画体験教室とオンライン受講

この教室の体験教室は、
       ワンデイ10:00〜17:00 と 
      ハーフデイ13:00〜17:00 があります。

オンライン教室は、テキストと月一のZOOMで受講します。
支払いはPayPalを通して行いますので、支払い時点のその国のレートで支払うことになります。


木版画教室 ゆう ワンデイ体験教室
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