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彫刻刀の種類各種・右端はノミを叩くための槌(つち)で音が出にくいゴムの槌

・短柄➡︎長柄で種類順に並べてある。左から丸刀5本、三角刀4本、平刀5本、切り出し3本。
      その右隣の平いノミは「見当ノミ」といって、見当を彫るための平刀➡︎ノミ型彫刻刀2本➡︎         ゴムの槌(つち)。各種刀とも大小のサイズがまだある。

Q:【木版画を制作する場合の「彫刻刀」の種類を教えてください】

【彫刻刀】というだけでは間違いが起こるかも?

木版画用彫刻刀の丸刀サイズ5種
こんにちは、萬里(まさと)です。
きょうは、彫刻刀についての続きです。

木版画制作で欠かせない用具のひとつが、「彫刻刀」です。
前回の記事で、近所のスーパーや文房具屋では、学童用のセットの彫刻刀しかないはず。
と書きました。

じゃ、専門家用も見てみたいから、画材屋にも行ってみよう、
と頑張って街へ出掛けてきたのですが・・・。


彫刻刀を使うのは木版画だけではない

木版画用彫刻刀の三角刀4種の写真
ありました。ありました。
棚の一部に何列も彫刻刀が並んでいます。
長い柄の刀、短い柄の刀。 うひゃ~! すごく細い幅から親指より大きい幅まで、
彫刻刀といっても、いろいろな大きさや形や幅があるんですね。

学童用のセットのイメージがあるから、みんなあんなものだと思っていました。
と、そんな声が聞こえてきそうです。


そうなんです。一口に「彫刻刀」とは言いますが、
必ずしも木版画だけに利用するわけではありません。

木彫や木彫りの彫刻看板。あるいは木製の家具や小物に彫り物装飾を施すため。
小さなものではハンコなど。と、いろいろな分野で必要とされている用具なのです。

だから彫刻刀の棚には、ほかの分野で専用に使われる彫刻刀も混じっています。
たとえば「鎌倉彫り」専用など。

おそらく、カーブして反り返った刀や、妙な刃先の刀や、大工が使うノミと同じ形の
彫刻刀も見つけることができるでしょう。


木版画用の基本の彫刻刀をまず探しましょう

木版画用彫刻刀の平刀5種の写真
そういうわけですから、初心者が初めて画材屋で彫刻刀を探すと、
面食らって迷うばかりとなるのは目に見えています。
何事もそうですよね。未知の分野の事ではイロハのイから迷わざるを得ません。

彫刻刀の買い物にきたら、まず木版画用の彫刻刀を探します。
お店によって、分野を分けて展示しているところもあるし、
分野関係なしにサイズや種類で並べてあるところもあります。

ショップ店員でも、誰もが木版画制作のことまではわからない

木版画用彫刻刀の切り出し3種の写真
わからないからといってショップ店員に聞けば、
きっとにこやかにアドバイスしてくれることでしょう。
しかし、ショップ店員だからといって、木版画制作に精通した人というわけではありません。

アドバイスは受けても、すすめられるままに買ってあとで後悔しないように、
やはり出かける前に自分の欲しい刀のことや、予算のことも調べておきたいですね。


そうした余計な迷いをしなくて済むように、セットが組まれているわけです。
セットを見ると、最初にどんな彫刻刀が必要になるのかがだいたい分かります。

木版画制作で使う彫刻刀の基本は4種類。サイズはいろいろ

木版画用彫刻刀のノミ型と見当ノミと槌の写真
木版画制作で使用する彫刻刀の種類は、基本的に4種類。

1、丸刀=最もよく使います。いろいろなサイズが欲しくなります。
2、三角刀=一番新しい種類の彫刻刀、鋭くシャープな彫り跡は表現の意欲を高めます。
3、平刀=彫るというより削る感覚で使う彫刻刀。
4、切り出し=小刀とか印刀などとも呼ばれます。形を正確に切り回します。

この4種類の彫刻刀があれば、木版画の彫り表現はだいたい可能になります。
あとは、自分の表現意図に合わせて、いろいろと自分で道具を工夫して考案すればいいのです。
昔から、人はそうやっていろんな道具を作ってきたのですから。

木版画の表現は、要するに版面に凹凸を作ってあげればいいわけです。
釘で穴を開けようが、金槌でぶっ叩こうが、ノコ切りで切り目を入れようが、
凹みさえできればそれが版の表現になります。

あとはあなたの表現意欲と工夫次第。
それが技術よりも最も大事なことです。

彫刻刀のサイズ(刃幅)

彫刻刀7本組セットの写真
さて、4種類の彫刻刀ですが、それぞれの刀に幅のサイズがあります。
1ミリ、1,5ミリ、2ミリ、3ミリ。
そこからは1,5ミリずつアップして、4,5、6、7,5、9ミリと続きます。

そのあとは、なぜか3ミリずつアップして、12、15、18、21、24ミリ・・・
と続きます。18ミリからはノミ型の彫刻刀になります。

多くのセットを見比べてみると、
4,5ミリ丸刀、4,5ミリ三角刀、4,5ミリ or 6ミリ平刀 4,5ミリ切り出し。
このように4,5ミリを標準にしているものが一番多いようです。

でも、私なら丸刀6ミリ。
生徒さんは、彫るのが無理になるのがわかっているのに、
なぜか、どうしても細かな表現に走りがち。その予防のための6ミリです。
6ミリで彫れる大胆な作品を、初期は作っていきたいですね。

平刀は思い切って9ミリ~12ミリでよいと思います。
それなら見当彫りにも流用できます。

あれ? これじゃ4本にしかならない。
5本セットや7本セットにはなにが入っているの?

お、鋭いですね~。
5本では、丸刀のサイズ違いがプラスされていることが一番多いです。
7本なら、丸刀が大・中・小3種類になった上に、切り出しが左利き用(基本は右利き用)が
プラスというパターンがよく見られます。

広い面の部分は丸刀で彫ることが多く、面の大小に応じて丸刀を使い分けます。
だから、制作に慣れてくるほどに、最適なサイズの丸刀が欲しくなってくるのです。

彫刻刀のいろいろな変異型

変異型の彫刻刀3種の写真
ショップで彫刻刀の棚を見ていると、変わった刃先のものが結構目につきます。
平刀の角が丸まっていたり、刀の鋼(はがね)が曲がっていたり。
刃先を真正面から見ると、丸刀のU型のカーブが違っているものもあります①。

丸刀には、標準の半月カーブに対して、Uの字のようにカーブが深いもの(深丸刀)。
カーブがゆるいもの(浅丸刀)。カーブが、平刀かと思うぐらい平らなもの(極浅丸刀)②。

三角刀のコーナーを覗いてみます。
あれ? みんな同じだと思っていたら、よく見ると違うものがあるぞ?
よく見るとVの字の角度が違っていますね。
三角刀には標準の60度に対し、狭めの45度。広めの90度があります③。

切り出し刀にも、刃の角度の違ったものがあります。
刃の角度が狭くなるほど刃先が尖って、細かい部分の作業に適した形状になるのです④。

①は、彫るときに刃の両サイドの角の尖りが、版木に食い込むのを避けるために角を丸く
 してあります。

②は、刃先のUカーブが強いと、彫刻刀は版木に深く潜りやすくなり、カーブが緩くなるほど
 削るような感じに滑らかに彫れるようになります。

③は、角度が大きくなると、彫る時の彫り線幅が広くなり、小さくなると細く狭く、
 鋭い彫り跡になります。

④刃先が尖るほど、深い部分や細かな作業に適したものになります。

このように、作業の特性に合わせた変形刀があるのですが、
刃の形状がそのように工夫されているのはなぜなのか、その理由を分かっていなければ、
変異の刀は使いにくいばかりです。

初心者には、こうした刀の区別や使い分けは難しいですから、
専門家用の彫刻刀を一本買いするときには、最初は普通に標準の刀を準備して、
まずは彫り慣れることです。經験知を積み重ねることがなんといっても一番です。


「知って得する」一生ものの彫刻刀のはなし

短柄の彫刻刀をバラしてみた写真
まず、この写真を見てください。
短柄の金具を外して、彫刻刀をバラしました。中はこんな風になっているんですね。

使っているうちに、彫刻刀の刃先はどんどん磨耗していきます。
よく切れるように、まめに研げば研ぐほど短くなって行きますから。

あまり短くなると、根元の柄が版木に当たるようになって、彫りにくくなります。
そんなときは、彫刻刀をバラしましょう。

バラしたら、刃をペンチで挟んで、最初のときの長さまで引き出してあげます。
そのままだと彫る力で刃がまた潜り込んでしまうでしょうから、
ずれて空っぽになった溝には、爪楊枝などで埋めておきましょう。

彫刻刀の肝心な部分は鋼(はがね)です。
良い鋼(はがね)の彫刻刀なら、こうやって引きずり出しながら一生使えるそうです。

値段が高い! と思う専門家用の彫刻刀も、こうして考えてみるとお得ですね。


外部リンク

薔薇漢さんの手作り彫刻刀の写真
長柄の彫刻刀を自作している「薔薇漢」さんのサイトを見つけました。
一枚一枚丁寧に画像を撮って、長柄の彫刻刀を自作されています。

こうした方のサイトを自由に見せてもらえる時代ですもの、
自分でやることはないにしても、関連知識として参考にさせてもらいましょう。

一度目を通して知識にしておくと重宝しますよ。

ぜひこのサイトも参考として見てあげてください。
ありがとう! 薔薇漢さん。

彫刻刀柄にはめ込む写真  薔薇漢さん