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彫る目的によって、刃先の異なる刀を選べば、作業はスムース。

彫刻刀の刃先の形状になぜ違いがあるのか? 目的を考えよう!

Q : 彫刻刀の刃先の形状の違いと特徴を知りたい! 教えて!

彫刻刀の刃先の形状の違いがカーブに出る丸刀

丸刀の刃先
こんにちは、萬里(まさと)です。
今日は、彫刻刀の刃先の形状のことについて、
もう少し詳しくお話をします。

前回の記事で、彫刻刀にはいろいろな種類やサイズがある、とお話ししました。
ちらりと、刃先の形状についてもお伝えしていました。

その刃先の形状について、刀の種類ごとにもう少し詳しく説明します。
まず最初は丸刀です。

写真と図を載せておきましたので、これを見れば誰でも一発解答だと思います。
丸刀の特徴である半円形の刃先のカーブ。
これには種類があるのです。

標準の刃の形状は、円弧をちょうど半分にしたようなカーブです。
これがアルファベットのUの字に見える、丸刀があります。
これは『深丸刀』と呼びます。カーブが深い。単純ですね。

深丸刀は、版木に深く突き刺さりやすく、なんとなく彫りやすく感じるのですが、
彫り跡がえぐれたように深く彫れがちな刀です。

ザクザクと浚う(さらう)ような彫りには向いていますが、
繊細に、あるいは軽めに浅い彫りをしたいときには向きません。
ちょっと圧が強くなると、刀がすぐに版木に潜りやすくなるためです。


逆に、カーブが半円弧よりゆるいものがあります。これは『浅丸刀(あさまるとう)』
と呼びます。カーブが緩やかな分、版木の表面が浅めに彫れます。
軽い使い方をすると、版木の表面を削るような彫り方もできます。


パッと見た感じでは、まるで平刀かと間違いそうなごくごく浅いカーブの丸刀
もあります。これは『極浅丸刀(ごくあさまるとう)』です。

わずかなカーブがある分、平刀よりも版木にひっかかりやすく
ボワボワ、ムラムラしたボケた感じの浅い彫りにも効果が出ます。

これらの刀はいちいち刀と呼ばず、
『浅丸』『極浅』と呼び捨てにするのが一般です。

幅の狭い刀で面の部分を彫った後は、ゴツゴツした凹凸ができがちです。
その凸部分を平にならして滑らかな面にするのに、元来は平刀を使うのですが、
『浅丸』『極浅』を使うと彫りやすく、整理彫りが初心者でも楽にできます。



刃先の中央が両方の角より前に少し出っぱった丸刀があります。
ふつう丸刀は刀のボディに対し、直角に刃先がカットしてあります。
この刀は、ボディに対して斜めにカットされています。

こういう刀は、どういう目的で作られているのでしょうか?

版木を彫る作業をしているとしばしば経験するのですが、
形の際(きわ)を彫っているときなどに刃先の脇の刃の部分が食い込んで、
両サイドを余分に削ってしまったりすることがあります。

斜めにカットした丸刀の刃先は、こうした両サイドへの食い込みを予防しています。


彫刻刀の二枚の刃先の角度が異なる三角刀

三角刀の刃先
三角刀をあまりにも先端だけで彫ると、
細いひっかき傷のような、糸のような痕跡ができます。
こうしたわずかな傷跡でも、摺りにはちゃんと跡が写ります。
しかし、彫った状態のような写りではありません。

彫り跡が細すぎて、絵の具がその傷の間に詰まり、
その部分だけ色の濃い線状痕がでてきます。
ちゃんとした彫りのように、彫り跡が白く抜けてこないのです。

そんなわけで三角刀の彫りの場合には、
最低限の彫り幅と深さがないと、摺ったときにちゃんとした彫り跡がでてきません。

三角刀は、Vの字状に二つの平刀がくっついた形をしています。
このVの角度が、45度、60度、90度と種類があります。
彫ってみると、彫り線の幅が違って彫れるわけです。

どれでもいいような感じがしますが、
幅が狭い分、45度は版木の抵抗が大きく、彫りづらい感じがします。
初心者は60度が使いやすいと思います。


彫刻刀の刃先の角度が異なってくる切り出し

切り出しの形状変化は、刀の幅に対する刃の角度の違いです。
この角度が鈍角になるほど平刀に近くなります。

角度が鋭角になればなるほど、刃の長さが長くなり、
先端が尖ってきます。

もともと切り出しは、刃の長さ全体を利用するものではありません。
平刀と比べればよくわかります。
平刀は、刃の一文字全体を使って彫ります。

しかし、切り出しは刃先の数ミリの刃しか彫りには使いません。
その残りの刃先を使うのは、平刀代わりにエッジを落とすのに
利用するときぐらいでしょうか。

刃の角度が鋭角になるほど先端が尖ってきますから、
深い彫りの底の整理に使ったり、細かな図柄の彫りにてきしています。

基本的に切り出しは刃先の数ミリしか使わないものですから、
初心者はまずそれを意識しながら、標準の刀を使いこなしましょう。


彫刻刀の刃先の形状変化は両角にある平刀

平刀の刃先
平刀の刃先を真正面から見ると、形状の変化は感じられないかもしれません。
なぜなら、平刀の刃先は真一文字。
正面からは一本の線にしか見えないでしょう。


平刀の刃先の変化は、真上から見るとすぐにわかります。
四角形の角のように、刃先の両端が90度の角になっているのが平刀です。
その角にRがついて、丸くカーブしているのです。角丸と呼びます。

わざわざ角を丸く落とす必要なんてないんじゃない?
と、眺めているだけなら考えてしまいますよね。
でも、一度使い分けててみると「なるほどね」とガッテン! です。

通常の角が立った平刀で、版木の表面を浅く削り込んでみます。
それから刀を少し立てて、さきほどより少し深めに削り込んでみます。
そうすると、刃先の両角が脇に引っかかるような感じに少しささくれ立ってきませんか?

せっせと彫っているときに、このささくれを修正彫りするのも
結構厄介な仕事です。彫り跡も美しく見えませんしね。

角丸の平刀を使うと、この両端のささくれが出なくて作業がスムースになります。

ただし、初心者の段階から角丸平刀を準備する必要はありません。
通常の平刀は、削り彫りだけでなく、彫りとった後のエッジを滑らかにしたり、
見当を作るのに使ったり、と結構多用します。

まずは通常の平刀を十分に使いこなせるようになること。

初心者に必要なのは、便利な用具をたくさん揃えることではなく
(もちろん、生産者やお店の人はそういうお客さんの方が好きですけどね)、
1本の彫刻刀を存分に使いこなせるようになることがもっとも肝心なことです。


鉋(かんな)の話

枚新祭具店の鉋の種類
                      (写真引用元:https://souda-kyoto.jp/blog/00569.html)

この鉋(かんな)の写真は「そうだ京都、行こう。」という観光キャンペーンの
サイト画像を引用したもので、京都の「牧(まき)神祭具店」の
取材カットを引用させていただきました。


テレビ情報の記憶ではあるのですが、
桶職人さんが桶の曲面を削るのに出来合いの鉋(かんな)では刃型が合わず、
必要なカーブに合わせた鉋を自作して使っているという番組を私も見ました。

そのように、目的に合わせた道具が必要になると、
最終的には作業に合わせて自作するしかないのですね。
職人さんの多くは、ある意味道具職人でもあるようです。

木版画で使う彫刻刀の種類、あるいは刃先の変異は、
実はそれほど多いものではありません。

でも、必要に応じて工夫されたものがやはり定番になっているはずです。

それを考えると、自分の表現意図に合わせて用具が必要になるわけで、
釘を使ってもノコギリで切り目を入れてもいいんだよ、
と言った以前の記事も納得がいくかと思います。


外部リンク

枚新祭具店の豆鉋
                            (写真引用元:https://souda-kyoto.jp/blog/00569.html)

写真は鉋の項と同じサイトからの引用です。

この写真の豆鉋(まめかんな)も、どうやら道具を作る職人さんのお手製のような、
そんな気がします。

「そうだ京都、行こう。」のサイト、および取材記者さん、
それに大元の「牧(まき)神祭具店」様。

貴重な考える資料を勝手に拝借させていただきました。
ありがとうございました。

参考サイトはこちらです。
「そうだ京都、行こう。」
牧神祭具店